2011.5.13
成人の広汎性発達障害
職場内での発言や行動、または職場内での対人関係がうまくいかずに就労困難に陥る精神科疾患の中に「広汎性発達障害」があります。不注意・衝動性・多動性を主症状とした「注意欠陥多動性障害(ADHD)」、知的発達の遅れはないが、聞く・話す・読む・書く・計算する等の特定の能力の習得と使用に困難を示す「学習障害(LD)」は子供の頃から症状を抱えていて学童期に発見されやすい病気です。しかし当初は言葉の発達に遅れがあるもののやがて言語能力が発達して知的障害を伴わなくなった「高機能自閉症(自閉症の2割)」、言葉の発達に遅れがなく知的障害もなく社会性の欠如、コミュニケーション能力の欠如、興味の偏りを主症状とした「アスペルガー症候群」、またアスペルガー症候群と同様の特徴を持ち診断基準を満たさない「典型的ではない広汎性発達障害(PDD-NOS)」は子供の頃は自分では違和感を感じつつも発見されず成人してから社会生活や就労に問題を抱えてはじめて発見されることがあります。この中で「アスペルガー症候群」を例に挙げると3つの大きな特徴があります。<①社会性の欠如(集団の場の空気や相手の感情を読むのが苦手、会話はひとりで一方的にしゃべりがち、ひとりを好み他人への関心が低い、相手の表情や態度や行動への対応法がわからない)②コミュニケーションの障害(文言通りに言葉を受け取りたとえ話や冗談や皮肉はわからない、感情表現が苦手で流れに無関係な発言をする)③反復行動と狭い興味(同じ行動を反復しやすい、同じ状況を好み突然の変化でパニックになりやすい、特定のものに執着し全体が把握できない、同時進行が苦手)>このような症状で悩んでいる場合は地域の政令市や県の発達障害者支援センターに相談するのが一般的ですが、広汎性発達障害の「診断」を行ったり、「2次障害(うつ状態、不安状態、不眠等)の治療」を行ったり、「各種診断書の作成(精神障害者保健福祉手帳や自立支援医療意見書)」を行うのは、成人の広汎性発達障害に精通した精神科医療機関の仕事です。医療機関にうつや不安や不眠を主訴に受診し診察を受けた結果、広汎性発達障害が見つかる場合もあります。このように精神科や心療内科の鑑別診断において広汎性発達障害を見逃さないことは今後の治療や援助の方針決定において非常に重要であると言えるでしょう。

2011.5.4
「生活リズム」によるメンタル不全の予防効果
慢性的に業務多忙で帰宅時間が遅くなり慢性的に寝不足となってしまい、心身の疲労感が日々蓄積して就寝しても週末を過ぎても疲れが抜けない状態になることがあります。具体的な症状は全身がだるい、首や肩や腰のこりや痛み、頭痛やめまい、胃もたれや下痢や便秘、気分の落ち込みや無気力感、不安感や動悸や息苦しさ、ソワソワ感やイライラ感、不眠などの症状です。実際に具体的な職場内のストレスがなくても慢性疲労蓄積でこのような状態に陥ることがあり、すべての方ではありませんが生活習慣の改善で症状が軽減できるケースもあります。まず十分な睡眠時間を確保することです。365日の心身疲労の蓄積を回避するには最低1日6時間は十分な睡眠時間を確保したいところです。安定剤や睡眠薬を飲むときはアルコール摂取は禁忌ですが、一般の方が飲酒で睡眠を確保している場合に慢性的に眠りが浅くなったり夜中に何度も起きてしまうような状態はアルコール自体の眠りを浅くする作用が出ている場合やすでにうつ状態に陥っている場合があり、この場合の飲酒頼みの睡眠確保は好ましくありません。また学生時代から朝食を摂らない習慣の方がいると思いますが、就労者は学生と違い日々強い心身ストレスを受けて生活をかけて勤務を継続しているため、朝の血糖値低下から思考力や集中力の低下に繋がり、業務効率の低下や業務ミスも起こりやすく、これを契機に心身疲労が蓄積しメンタル不全に陥る場合もあります。また不規則な時間の食事は胃腸障害の原因となる場合もあり、1日3食毎日決まった時間にきちんと食事を摂ることが重要です。さらに帰宅後や週末の自分の時間を短時間でも毎日確保することも自己ストレス発散に繋がり大事なことです。最低限の内容でしたが以上の点に留意しながら規則正しい生活リズムを確保することで慢性的な心身疲労蓄積を減らしてひとりでも多くのメンタル不全の発生防止に繋がればと思います。

2011.4.28
アサーティブネス
「アサーティブネス」とは「自己主張すること」です。これは対人関係においてストレスをためないようにするコミュニケーション技術です。自己主張と言っても相手に自分の意見をごり押しすることではありません。「誠実」「率直」「対等」「自己責任」の4つの軸をふまえて相手との関係を冷静に客観的にとらえて相手の言動を誤解しない、自分の考えや意見をその場できちんと相手に伝えることです。うつ病になりやすい病前性格のひとつに「メランコリー親和型性格」というものがあります。真面目で几帳面で責任感が強く自分よりも他人を優先して気を遣い無理な業務を振られても「無理です」とか「出来ません」と相手に言うことが出来ずに引き受けて後から悩むような性格です。このような場合、もしその場できちんと無理なものは無理と断ることが出来たらどうでしょうか?その場においては確かにバツが悪くて相手から文句を言われるかもしれません。しかし長期的なビジョンで考えれば自己限界をきちんと相手に伝えることで自分自身の心身の健康状態を維持しメンタル不全に陥ることを予防できるのです。このように自分も相手も尊重しながらお互いに謙虚な姿勢でお互いの言動を誤解されないようにきちんと礼節を持ちながら自己主張していくことは日常生活や職場における対人コミュニケーションのストレス予防において非常に重要なことであると思います。

2011.4.27
ワークライフバランス
「ワークライフバランス」とは「仕事と生活の調和」を意味する言葉です。企業間競争や成果主義の中で過剰労務や業務期限がタイトであることなどから我々はついつい仕事中毒(ワーカホリック)になりがちで私生活を仕事の犠牲にしてしまいがちです。この結果としてうつ病を中心とした精神疾患や身体疾患の3大疾病(脳卒中、急性心筋梗塞、癌)を発症する場合もあり、職場や上司からのラインケアだけではなく自己管理(セルフケア)も非常に重要になってきます。結果的に数年間のハードな勤務をしてその後休職や入院でリタイアしてしまうより、仕事と私生活のバランスを確保しながら長期にわたり安定した業務成績を維持する方が個人にとっても企業にとっても損失は少ないという考え方です。またこの言葉は女性の社会参画においてもよく使われており、「仕事・家事・育児・家庭・個人」のバランスを確保しながら、より良い充実した人生を送ることが心身共に健康を維持していく秘訣であり、女性にとってはアンチエージングにも関わる重要な問題でしょう。このような考え方が社会全体に浸透し個々のメンタルヘルスに寄与できればうつや不安や不眠に悩む人も減っていくのでしょうが、現実的には厳しい社会問題も多くまだまだ心療内科や精神科の医療機関の社会的に果たす役割は大きいと感じています。以前にマガジンハウスの雑誌編集長だった石川次郎さんが「自分は遊ぶために仕事をしている」と言った番組を見たことがあり、フランス人が夏に長期にバカンスを取るのと同様に非常に西洋人的な自由な発想だと納得した事を覚えています。

2011.4.26
就労者がメンタル不全で休職するということ
就労者が何らかの理由でメンタル不全に陥ってしまい生活上の苦痛や勤務における苦痛を抱えたことで本来の健康な心身状態を維持できず心療内科や精神科を受診することが多いと思います。この中で外来受診から休職に至るケースは精神科主治医から見て精神医学的に勤務継続が困難であると判定した場合ですが、必ずしもすべての患者さんが最初から休職したいと思っているわけではありません。自己限界まで努力されてこれ以上頑張れないという状態で受診された患者さんが自ら休職を希望されてもこれは決して恥ずかしいことではありません。また一方で自己限界のメンタル不全に陥っても休職は出来ない、職場に迷惑がかかる、家族に申し訳が立たないと自責感にとらわれて自ら休職を希望されない場合もあり、この判断が正しいのかどうかは疑問です。どちらのケースであっても重要な点は「心身健康な状態をできるだけ早期に取り戻し再び元気に勤務が出来る状態に戻すこと」が治療上最優先であるということです。もちろん休職せずとも薬物療法と精神療法を行い症状が軽減緩和して勤務継続が可能な状態であれば休職する必要はありませんが、勤務継続が困難な状態であれば迅速に休職して自宅静養しながら通院加療や復職リハビリを行う必要があります。決してひとりで悩むことなくご家族や職場の上司や労務担当者や産業医や産業保健スタッフに相談されて、ご自身の勤務限界を感じる前に出来るだけ早期に症状がまだ軽微なうちに精神科医療機関を受診すべきであると思います。

2011.4.19
「うつ状態」であっても「うつ病」とは限りません
「うつ状態」というのは気分が落ち込む、物事への興味や関心がない、生活や活動の意欲がない、考えがまとまらない、不安で落ち着かない、などといった主に大脳の前頭葉の活動の低下した状態で「症状」と考えるとわかりやすいと思います。一方「うつ病」は「うつ状態」が明らかに存在し国際標準の「うつ病」の診断基準を十分に満たしていて、かつその他の精神疾患や身体疾患をすべて除外診断してはじめて診断がつく「病名」です。つまり「症状」と「病名」の違いです。内科の病気で例えれば「胃もたれ」と「慢性胃炎」のような関係です。また「うつ状態」を呈する精神疾患は非常に数多くあり「うつ状態」と書かれた診断書だけでは病名を特定することは出来ません。これで企業の人事労務担当者や産業医の先生方も病態が理解できず非常に困ることが多いでしょう。精神科医が患者さんに「うつですね」とか「うつ状態です」と病名を言わずに症状だけ告知するのは何らかの理由があるにしても非常に曖昧な表現であるので、当院では患者さんにはきちんと病名を告知して病気の理解を得ていただいた上で治療を開始するように心がけています。

2011.4.18
震災後の不安や不眠や地震酔いについて
東日本大震災に被災された皆様には心よりご冥福とお見舞いを申し上げます。3月11日の震災から1ヶ月以上経過しましたが未だに余震が続きまた大きな地震が起こるのではないかという不安感や放射能問題は大丈夫なのかという不安感をお持ちの方がおられると思います。またその影響で夜の睡眠も寝付きが悪い、眠りが浅い、夜中に何度か起きる、朝早く目が覚めるといった典型的な不眠状態になられている方も多くいらっしゃると思います。また余震が多いため船酔いのように内耳の三半規管の異常が起こり地震酔いが抜けなくて日々悩んでいる方も多いことでしょう。このように不安、不眠、身体不定愁訴(めまい、頭痛、吐き気、胃もたれ、動悸、下痢、全身倦怠感等)が長く続くと、うつ状態に発展する場合もあり、日々の日常生活の中での気分転換や心の安らぐ生活環境や安心できる対人関係を自分で意識して作っていくことが症状改善のために必要であると思います。それでもどうしても症状が改善しない場合は不安、不眠、うつの治療を心療内科で迅速に行い必要最低限の薬物療法と個別の性格特性に合わせた精神療法で本来の自分自身を1日も早く取り戻して心身共に健康に暮らしていけるようにすることが重要であると思います。

2011.4.14
過敏性腸症候群(IBS)
通勤の満員電車や人が多い閉鎖空間、オフィスや学校の教室等で最初は食事前で空腹でお腹が鳴ることが恥ずかしい、少しお腹が動いてガスや便意がありそれを少し我慢する程度のことであったのに、それを意識する時間の経過で徐々に症状がエスカレートし自分が意識した苦手な場所で腹痛が起こり、ガスや便を公衆の場で失禁してしまうのではないかという恐怖感に悩むことがあります。このため苦手な場所を避けて通勤電車を途中下車したり(回避行動)、そこでまたガスや下痢発作が起きたらどうしようと悩む(予期不安)が起こり、日常社会生活に支障を来してしまうことがあります。これは「過敏性腸症候群」という腸管運動の機能異常の病気です。脳内のメカニズムはパニック障害と非常に似た動態になっていて大脳扁桃体の過敏反応から脳幹の青斑核を経由して自律神経発作が起こり、その対象臓器が大腸であるわけです。治療は脳の過敏反応を抑えて大腸の過敏反応を抑えるというダブルターゲットの治療になりますが、男性であれば治療専門薬のイリボーは保険適応の薬です。女性の場合はイリボーが保険適応ではないので脳と大腸の過敏を押さえる薬をそれぞれ使い、結果的にダブルターゲットの治療にします。男性でも症状が強い場合は多剤併用になる場合があります。ただし苦手な場面でなくても終日慢性的に腹痛や下痢発作がみられる、血便や発熱を伴っている、腹痛が排便後に軽快しない、体重減少があるというような場合は消化器内科での精密検査(大腸内視鏡検査)を行う必要があります。確率は低いですが腸管の器質疾患である「潰瘍性大腸炎」や「クローン病」が見つかる場合があり、この場合は消化器内科で専門治療を行わないと問題は解決しません。過敏性腸症候群は先の述べたとおり薬物療法も大切ですが発症原因が腸管過敏だけではなく元来の不安を感じやすい性格や現実生活のストレスが非常に関与しているのでこの社会的ストレスを減らし心理面の不安感や考え方を整理していくことが心療内科における治療においては重要になってくると思います。

2011.4.12
「あがり症」は性格の問題???
学生時代に授業中に国語の朗読や音楽の独唱をしーんとした教室で先生や同級生が耳を澄ます中で行ったことはありますか?元々目立ちたがり屋や社交的な性格で喜び勇んでうまく出来た方もいらっしゃると思いますが、先生に急に指されて緊張しすぎたり胸がドキドキしたり手足がふるえて声がうわずってしまい非常に恥ずかしい思いをした方もいらっしゃると思います。このような失敗体験も「学生時代の淡い想い出」になっていれば良いのですが、その後も人前での発言機会で緊張がひどく職場や学校で日々困っている方がいらっしゃると思います。「自分はもともと気が弱いんだ・・・」と性格の問題にしている方もいますが、苦手意識を持つ好まない状況での言動の緊張感は誰にでもあるものです(正常反応)。ただし苦手な環境下で手足がぶるぶる震える、声が震えてうまく発言できない、心臓がバクバクして頭が真っ白になる・・・このような強い緊張感やパニック症状を呈する場合は「社会不安障害(対人緊張症)」を疑う必要があります。この場合は「性格の問題」ではなく「大脳扁桃体(人間の不安や恐怖をつかさどる中枢)の過敏状態」を呈していて、失敗体験や恐怖体験をきっかけに苦手な状況下に遭遇すると簡単にパチンとスイッチが入り自律神経発作が起こるようになってしまったのです。これは「脳の代謝異常の病気」です。また職場で電話を受けることが出来ない、人前で字を書くと手が震えてしまい困る(書痙)、喫茶店やレストランでコーヒーカップを持つと手が震えてコーヒーをこぼしてしまう・・・健康な人から見たらまさか?と思うような症状ですが、これらの症状をお持ちの方も同様に非常につらくて日々の生活にとても悩んでいます。心療内科の受診には抵抗があるかもしれませんが、病気や治療の内容をわかりやすく説明してくれる精神科専門医に受診されることをお勧めいたします。

2011.4.11
「パニック発作」 = 「パニック障害」 ではありません
みなさんはパニックになったことはありますか?日常生活の中でもお財布を落としてしまったり家の鍵や携帯電話をなくしてしまったり非常にあわててしまい思考が混乱して胸がどきどきしたり冷や汗が出て部屋の中を訳もなく歩いてしまったり中にはショックのあまり貧血で倒れてしまったり過呼吸になってしまう方もいらっしゃるかもしれません。このような状態は精神医学的にはパニック状態というのですが、パニック発作が1回あったから即パニック発作と診断がつくわけではありません。根拠のある原因に基づいてパニック発作を起こすことは正常な生体防御反応(正常)です。これに対して何も根拠がなくいつでもどこでも時や場所を選ばずに頻回にパニック発作を起こすものをパニック障害といいます。また特定の場所(満員電車や車の渋滞や閉鎖空間や人混みや身動きのできない映画館や美容院等)においてのみパニック発作を頻回に起こすものをパニック発作を伴う広場恐怖症(狭義のパニック障害)といいます。この場合回避行動(苦手な場所を自分から避ける)や予期不安(またここで発作が起きたらどうしようと不安になる)を伴うことが多いです。またパニック発作があってもパニック障害ではない精神科関連疾患の2次的な症状としてみられるケースも多く安易な診断は治療の方向性を見失います。パニック障害は精神科専門医がきちんと鑑別診断して学会や研究班のガイドラインに則した我流ではないきちんとした治療内容を患者さんにわかりやすく説明して安全に提供することが精神科医療機関の責務であると思います。

さいたま浦和の心療内科・精神科
メンタルヘルス田井クリニック
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