就労者のメンタル不全になる原因のひとつに職場の対人関係のストレスがあります。対人関係が一方的ですべて自分の型にはめようとする上司からの度重なる叱責行為やパワハラ行為、またマイペースで社会的常識に欠けるあるいは業務処理能力に問題のある部下に対する労務管理ストレス、またその両者を兼ね備えたような中間管理職のストレス、さらに取引先や営業先や出向先における顧客相手や出向先社員からの無理な業務要求等、例を挙げればきりがありませんが、様々な職場環境で様々な対人ストレスが発生しこれが長期遷延化することで徐々に不眠状態や不安状態やうつ状態や体調不良に追い込まれて精神疾患を発症したり休職になるようなケースが少なくないように思います。そもそもの対人問題の発生原因がご本人の性格人格問題や精神疾患に存在する場合もあり、発症原因を客観的に冷静に見極めて精神疾患の診断と治療だけではなく、そもそもの対人関係問題の原因を整理理解し職場の人事労務担当者や産業医に自ら相談していく姿勢が問題解決と再発予防対策上必要であると考えます。

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過重労働によって健康障害(脳血管障害や虚血性心疾患やメンタルヘルス不調)や過労死のリスクが高まることから、「労働安全衛生法」により「長時間労働者への医師(産業医)の面接指導」が産業医のいる従業員50人以上の事業場では平成18年4月1日から義務化され、産業医不在の従業員50人未満の事業場でも平成20年4月1日から義務化されました。具体的には時間外勤務や休日勤務の合計が月100時間を超えており疲労の蓄積がみられ労働者本人から面接指導の申し出があった場合に事業場は産業医に面接させる「法的義務」があるということです。また同様に時間外勤務や休日勤務の合計が月80時間を超えており疲労の蓄積がみられ労働者本人から面接指導の申し出があった場合、あるいは事業場であらかじめ定めた過重労働時間の基準を超えた場合は事業場は産業医に面接させる「努力義務」があります。この産業医面接で業務軽減措置が必要と判断された場合は産業医から事業場の衛生委員会や人事労務担当者に産業医からの業務軽減措置が行われることがあります。このように労働者の過重労働を軽減する制度が法的に確立しておりますが、昨今の不景気や企業の経営状態の悪化から事業場の社員全体が慢性的に過重労働環境であり自分だけ職場に言い出しにくい現実問題もあります。産業医不在の従業員50人未満の事業場では産業医は不在ですので職場の上司や人事労務担当者や経営者本人に相談することになるのでこの場合もなかなか職場には相談しづらい状況があります。現実的に過重労働が原因でメンタル不全を発症した場合にはご自身で心療内科や精神科を探されて受診し適切な診断を得て実際に治療を開始し症状を軽減させるだけではなくご自身が職場に受診開始報告をすることで結果的に事業場の過重労働が軽減される場合もあります。実際に個々のケースで対応が異なりますので心療内科の主治医と相談した上でご自身で対応策を決めていくことになります。

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2010.9.20

産業医とは

あなたの職場には産業医はいますか?「労働安全衛生法」により業種を問わず常時勤務する労働者が50人以上の事業場は産業医を1人選任しなければならない法規定があります。(有害危険を伴う特定業務の労働者500人以上の事業場、及びすべての業種で労働者1000人以上の事業場は「専属産業医」を選任する義務があり、すべての業種で労働者3001人以上の事業場は産業医を2人選任する義務があります)一般的に多いのが「嘱託産業医」で月1回以上事業場に訪問して産業医活動を行いますが、「専属産業医」はその職場に通年常駐勤務している産業医のことをいいます。産業医の職務は主に「5管理」と呼ばれ以下のような業務があります。<①「健康管理」:労働者の健康診断や健康相談の実施及びこれらに対する対策と措置 ②:「作業管理」:労働者の作業内容の確認とその安全対策 ③「作業環境管理」:労働者の作業環境内容の確認とその安全対策 ④「労働衛生教育」:労働者への労働安全教育と健康保持増進教育の実施 ⑤「統括管理」:①~④を把握した上で職場の衛生管理体制の整備や計画を実施し、労働者の健康管理について職場の事業者や衛生管理者に助言や勧告を行い、月1回以上職場を巡視し作業内容や有害事象の安全確認と必要な対策措置の実施>産業医というのは事業場から産業医契約の報酬を得ていても法的には事業場と労働者の中間的な立場にあるため、どちらかに偏ることなく労働安全衛生管理対策上、適切な情報収集、面接及び診察の実施、結果考察と問題解決の方向性の判断、事業場への助言指導や再発防止対策を継続的に実施していかなければならない職務があります。

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あなたが職場のストレスでメンタル不全に陥った場合、いったい誰に相談すべきかご存じでしょうか?一般的には職場の直属の上司に相談するケースが多いと思います。そこで労務問題が迅速に解決すれば症状は早期に改善しますが、すぐに問題が解決しない場合や何らかの症状(うつ状態、不安状態、不眠、身体不定愁訴)があり症状が容易に改善しない場合は患者さんご本人が心療内科や精神科に受診して診断名や発症の原因や問題解決の方向性を確認しそこで治療を開始するだけではなく必要があれば職場環境調整や休職を行う必要があります。この場合は職場の直属の上司から人事労務担当者(会社によっては総務担当者)に報告が行き、会社の産業保健スタッフ(産業医や保健師や社内カウンセラー)にも相談が進み、患者さんご本人が人事労務担当者や産業医との個別面談を行い問題解決の話し合いをすることになります。職場の労務問題は大別して職場の過剰労務のストレス、職場の業務内容のストレス、職場の対人関係のストレスに分けられ、心療内科や精神科に患者さんご本人が受診して症状を緩和させることはできますが、根本的な問題解決の職場環境調整を患者さんご本人が職場のメンタルヘルスに関わる関係者に具体的に的確に相談して職場のストレス環境の改善を行うことが治療上及び再発防止対策上非常に重要なことであると考えられます。

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職場においてメンタル不全を発症した場合、通常は患者さんご本人が心療内科や精神科を自分で探されて受診し精神科主治医から診断と治療の説明を受けて継続的に外来通院加療を行っていくことが一般的な治療開始の状況です。この際に主治医が労務困難と判断した場合は「休職診断書」が出されて休職開始となり自宅静養しながらの通院治療となります。その後病状が回復し規則的な日常生活が送れて心身の体力が回復し患者さんご本人の復職意欲も高まれば精神科主治医から「復職許可診断書」が出されて主治医からの復職許可となります。この際に職場の産業医は人事労務担当者と相談しながら実際の労務に耐えうるかどうか、復職する職場環境調整がどの程度必要であるのか、また復職支援プログラム(時間短縮勤務等の保護勤務計画)の設定が必要であるのかどうかを復職前に慎重に判断する必要性があります。このためには精神科主治医からの「復職許可診断書」だけでなく、産業医からの主治医宛の「診療情報提供依頼書」の質問事項に回答する形の主治医から産業医への「職場復帰に関する診療情報提供書」が産業医や人事労務担当者の正式な復職許可の判断材料として必要になります。このような「産業医と主治医の連携」を復職前にしっかりと行うことで「主治医の病状回復の判断」と「産業医の実際に職場復帰に耐えうるかどうかの判断」との「ギャップ」を埋めることができ職場復帰後の再休職防止に役立つことになります。

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就労者のメンタル不全を考える場合に患者さんご本人、治療者である主治医、会社の上司や人事労務担当者や会社の産業医をはじめとした産業保健スタッフが、そのメンタル不全がいかにして発症したのかをよく理解していないと根本的な問題が解決しないだけでなく、もし治療が成功しても再び症状が再燃する可能性が高くなります。そのためにも過剰労務、労務内容、対人関係等の職場のストレス問題の確認とそれに対する職場環境調整、患者さんご本人の性格、人格、発達等の個人特性の疾患基底の有無を確認し、身体基礎疾患や依存嗜癖問題の影響を除外した上での精神科関連疾患の適正な診断と適正な治療、職場以外のプライベートにおけるストレスの有無の確認とその対応策が治療および再発防止策として必要不可欠になります。

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平成20年10月1日に埼玉県の県都浦和において就労者のメンタル不全の診断・治療・休職判定・復職支援を主な目的とした心療内科を開設して1年10ヶ月が経過しました。おかげさまで数多くの就労中の方々のメンタル不全の早期発見・早期治療と休職者の復職支援と再休職防止に貢献することができて開設の趣旨に叶った医療機関として社会的に貢献できているものと確信しております。今後も当クリニックの特徴や院長としてのメッセージをこの「院長ブログ」に書いていきたいと考えておりますのでどうかよろしくお願いいたします。

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